いとしの北酒場

いとしの北酒場

2026.5.7

漁業の街として栄えた釧路は、「炉ばた焼き」発祥の地として知られ、古くから酒場が賑わっていた。
かつては懐に札束を入れた漁師たちが、羽目を外して飲み歩いていたとか。
今も繁華街の末広町エリアを中心に飲食店が軒を並べ、旅人の旅情をかきたてる。
歌謡曲「北酒場」で歌われた舞台はこの街なのだろうか?という思いを抱きつつ、趣ある風情の店ののれんをくぐってみた。

※本記事は2025年2月時点の情報です。おでかけの際は公式サイトで最新情報をご確認ください。
※価格はすべて税込みです。
※機内誌rapora 2025年2月号に記載された内容を一部改変し掲載しています

釧路の食文化
「炉ばた」のうまさに浸る

囲炉裏を囲み、炭火で焼き上げられた魚介を堪能する「炉端焼き」は、釧路独自の食文化。その魅力を伝えようと〈釧路炉ばた学会〉を立ち上げた店主が営む〈ろばた鱗〉へ。そこで出会ったのは、国内でも指折りの水揚げを誇る漁業の街・釧路のうまさの真髄だった。

▲ 釧路近海の新鮮な魚介が目の前で焼かれるのが炉ばたの醍醐味。焼き上がりが待ち遠しい

新鮮な魚介を囲炉裏の炭火で焼いて食べる炉端焼きは、釧路独自の食文化として親しまれてきたが、そのルーツは宮城県仙台市だという。
「もともとは"囲炉裏端焼き"といい、串にさした川魚や野菜などを焼いて提供していたそうです。

釧路の人がその店を訪れ、『釧路なら新鮮な魚でできる』と始めたのが、地元では"炉ばたの炉ばた"と呼ばれる〈炉ばた〉という店。1950年代半ばのことでした」と教えてくれた後藤公貴さんは〈ろばた鱗〉の3代目。 2022年に炉ばたを提供する飲食店を連ねて〈釧路炉ばた学会〉を立ち上げ、会長を務めている。

「戦後間もない頃、この辺りは屋台が立ち並び、バラックの建物の中で商売する店が賑わい、繁華街は栄えていったそうです。かつて釧路は漁業、炭鉱、製紙工場と3つの基幹産業が盛んで、街はかなり活気があったんですね」。そんな混沌とした賑わいの中で炉ばたは生まれ、最盛期には170軒ほどの炉ばたの店が軒を連ねていたという。

▲釧路近海の新鮮な魚介が目の前で焼かれるのが炉ばたの醍醐味。焼き上がりが待ち遠しい
▲囲炉裏で食材を焼くスタッフを「焼き手」という。遠火の強火で焦がさずに焼くのがコツ

では、炉ばたの魅力とは何か? 後藤さんに聞いてみた。「焼いている魚や野菜が間近に見えて、地元の味わいを気軽に楽しめること。 カウンターとの距離感もあり、お客さま同士が親密になれる雰囲気が魅力ですね」。
釧路炉ばた学会では、「炭火を使用すること」「地元食材を積極的に使用すること」「炉を囲んで食事ができ、人との触れ合いができること」を、炉ばたの基本として定義づけているという。

▲ ホッキ貝は本場の苫小牧産。うまみをたっぷり含んだジューシーな味わいが魅力
▲釧路町・仙鳳趾(せんぽうし)産のカキは、プリプリっと締まった身と強い甘み、濃厚な味わいが特徴
▲ 焼台で温まったかめ壺から注がれる「だら燗」の酒は絶妙なぬる燗。何杯でもイケる!

炉ばたでもう 一 つ欠かせないのが「だら燗」というお酒の飲み方。
かめ壺に日本酒を直接注ぎ、焼き台の炭火の近くに置いて温める。ゆっくり燗をつける=だらだら燗をつけるから「だら燗」なのだろうか? 「かめ壺の中でゆっくり温めることで、味が丸くなり、日本酒の尖った感じがなくなるんですよ」。

では、だら燗を飲んでみることに。酒は釧路の地酒「福司」。かめ壺から柄杓で茶碗に注がれ、口にするとぬる燗のまろやかな味わいが広がる。焼台で焼かれているホッケやカキ、ツブなどを眺めながら飲むのもいいものだ。

▲ 炭火は遠赤外線効果で中までしっかり焼け、燻製効果で香りとうまみがグッと引き立つ

「釧路には独自の食文化があるといわれますが、港町で船乗りが多く、道東の中心拠点とされていた時期もあり、人の往来が盛んでいろんな文化が浸透したためだと思います。私にとって、釧路は人柄がいい街。炉ばたを通して、地域の魅力を伝えていきたいですね」こんがり焼かれたホッケを食べると、ほっこりとした身に脂がのったうまさが詰まっている。「このほっこり感は、炭火の力。ガスコンロとは全く違う仕上がりになりますね」と後藤さん。うまい魚と 一 緒にだら燗は進み、ついつい飲みすぎに。だら燗って、だらだら飲んでしまう酒という意味なんですよ、きっと。

<DATA>
ろばた鱗/釧路炉ばた学会
Robata Uroko/Kushiro Robata Gakkai
今年創業50周年を迎えた、釧路の炉ばた店の中でも2〜3番目の歴史を誇る老舗店。カウンターに囲まれた囲炉裏の中で新鮮な魚介を焼き上げる、炉ばた焼き本来のうまさが堪能できる。後藤さんが会長を務める釧路炉ばた学会は、炉ばたを提供する13店が参加し、釧路発祥の食文化としての魅力を発信し続けている。

住所:釧路市末広町2‐24
TEL:0154-22-4001
時間: 17:00〜24:00
定休日:日曜日(月曜日、祝日の場合は通常営業)
公式サイト:ろばた鱗 http://robata-uroko.jp/
釧路炉ばた学会 https://robata946.com/

釧路赤ちょうちん横丁ではしご酒

戦後間もない時代から70年以上の時を越えて親しまれる〈釧路赤ちょうちん横丁〉。昭和レトロな雰囲気あふれる横丁には、道東の食材を生かした定番の味から工夫を凝らした創作料理まで、多種多様な店が軒を並べている。ぶらり赤ちょうちんが灯る路地を歩いて、タイムスリップとはしご酒を楽しもう。

酒好きにとって、"横丁"はついつい足を運びたくなる吸引力がある。ここ〈釧路赤ちょうちん横丁〉は、文字通り赤ちょうちんを下げた店が並ぶ、地元では「赤横」と呼ばれる酒場街だ。

「戦後間もない1952年頃、リヤカー屋台が48店並んで営業していたのが横丁の始まり。その後、別な場所に移転した後、1961年に現在の場所に移転し、1968年に建物を建て、 釧路赤ちょうちん横丁として営業しています」と教えてくれたのは、横丁の管理会社の代表・森たか子さん。 子どもの頃から母が営む焼鳥屋に出入りし、横丁の移ろいを間近に見てきたという。

「当初は28軒のお店が並び、全て焼鳥屋さん。男の人たちがちょっとお酒を飲む感じで集まりとても賑やかでしたが、1990年代にはシャッター街になり、女の人が一人では行けない所と言われるようになりました。私の子どもの頃は、漁師町なので気風の良い方が多く、もめ事もありましたが、お金払いはとても良く、飲み代よりチップの方が多かったことも。お土産に魚を箱で持って来る方もいました」

森さんが組合理事(現管理会社代表)になった20年前、古くからの常連が集まって応援団を結成し、 横丁がリニューアルされた。 「現在営業しているのは26店。開業を希望する方には面接を行い、意欲がある方やコンセプトを持っている方など、きちんと考えている方に入店してもらっています。 昔のイメージを 一 掃して、女の人が 一 人で歩ける場所になりました」

横丁を歩いてみた。路地を挟んで両側に小さな店が並び、どの店にしようか迷う楽しさがある。昭和レトロな雰囲気が、呑兵衛の心を和ませる。

道バル アレイ

道産のお酒とタルタルステーキ、釧路餃子など多国籍料理が楽しめる赤横管理会社の直営店。案内所も兼ねている。

TEL:080-5831-6379
時間: 17:00〜24:00
定休日:日曜日・月曜日

居酒屋 花

女将さんが一人で営むお店。道東産の魚介や焼鳥、家庭的な一品料理をこだわりの日本酒とともに味わいたい。

TEL:090-5982-0671
時間: 18:00〜24:00
定休日:月曜日、週末以外の祝日

焼とり みいちゃん

40年以上営業を続ける赤横最古の老舗店。焼鳥や魚介、一品料理を肴に、気さくな女将さんとの会話が楽しめる。

TEL:0154-25-4353
時間: 17:00〜24:00
定休日:月曜日、祝日

BEER BAR RAW

鶴居村「ブラッスリーノット」ほか国内外のクラフトビールが40〜50種類。ビールに合うフードとの相性も抜群だ。

TEL:080-5593-3347
時間:18:00〜24:00
定休日:日曜日

鉄板BISTORO 和音〜KAZUNE

厳選した道産食材を目の前でシェフが焼き上げる。ワインやビールなどともに、鉄板焼きをカジュアルに楽しみたい。

TEL:050-1722-1402
時間:17:00〜23:00
定休日:月曜日

「少しずつリフォームを重ね、トイレもきれいになり、今は明るいイメージになっています。40年続いている店もあれば、開店したばかりの店もあり、お手頃な料金でいろんな雰囲気を味わえますね。全店に明朗会計をお願いしていますので、安心して楽しめる場所になっていると思います」リヤカー屋台から70年以上続く北海道最古の屋台村には、過去と現在を行き来する混沌とした味わいが息づいているのだ。

<DATA>
釧路赤ちょうちん横丁
Kushiro Akachochin Yokocho

住所:釧路市川上町4-1
TEL:0154-42-0334(管理会社:釧路赤ちょうちん横丁㈱/平日10:00〜18:00)
時間: 17:00〜24:00
公式サイト:https://www.kushiro-akayoko.co.jp/

ワインと炉ばたと夕日、もうひとつの釧路飲み

釧路の市街地を離れ、釧路市発祥の地といわれる米町エリアへ。ここには従来とは一線を画す新感覚の炉端焼きの店があるという。〈炉ばたとワインK〉では、日常から想像以上に引き離される、極上の幸せな時間が訪れようとしていた。

お店を訪れたのは、11月中旬の15時頃。 店内に入ると、海側の側面は全面ガラス張りで、目前に大海原が広がり、沈みつつある太陽が正面に輝いていた。思わず「おおっ!」と声が出る。

釧路出身のオーナーシェフ今秀雄さんは、フランス・ブルゴーニュの〈ロティスリー ドゥ シャンベルタン〉で修行後、東京・駒沢〈ラ プリムール〉などを経て帰釧し、2012年に〈魚介とワインK〉を、2023年に〈炉ばたとワインK〉を開業した。「10年前に隣に自宅を建て、この土地を空けていました。 釧路は世界3大夕日のひとつといわれる街。 夕日と料理をゆっくりと楽しめる場所をつくりたかったのです」

太陽は刻 一 刻と水平線に近づき、周囲をオレンジ色に染め上げる。 店内は暗さを増していくが、照明は灯さず窓の向こうの夕日だけが明かりに。 ここでは、極上の夕日を眺めながらアペリティフを楽しみ、完全に日が落ちた後に料理が供される。

▲白糠(しらぬか)町・茶路めん羊牧場産の羊肉のミンチを上尾幌(かみおぼろ)産の「極茸(きわみたけ)」というシイタケに詰めて焼いた一品
▲季節により北海道産の上質なボタンエビを厳選。炭火により濃厚なうまみが凝縮されている

「釧路の炉ばた文化をアレンジすることが、僕が地元でやる意味になるのかなと思いました。道東にはエネルギーがある食材が多く、フレンチの手法にはこだわらず、炭を使ってそれらを活かす料理を供しています」やがて太陽は沈みきり、彩度を落とした空の青に、深みを増した赤とオレンジが溶け合い、えも言われぬ美しさを放つ。 マジックアワーだ。さあ、料理を楽しもう。

▲ 釧路産のししゃものフリット。頭は味噌が固まるようにじっくり焼き、身は火を入れすぎないように焼き上げる
▲ 炭火の焼台を囲む10席のカウンター。夕日と料理とワインの至福を味わう特等席だ

「ここは炉を囲んだカウンター10席の店。ワインと地元の食材を使った料理を肩ひじ張らずに楽しんでほしいですね。 おいしいものを食べて、お客さま同士が話して盛り上がる、それが釧路の炉ばた文化です」。 ここは釧路屈指のサンセットビューの特等席。 ワインと料理とともに極上のマジックアワーを。

<DATA>
炉ばたとワインK
Robata To Wine K
生産者との交流から、厳選した道東の豊かな食材を仕入れ、その持ち味を活かして「洋」を用いた新しい炉ばた料理を提供。オーナーシェフ今さんは、日本ソムリエ協会道東支部副支部長を務め、こだわりのワインは1000種類以上。極上の夕日とワインと料理のマリアージュを楽しみたい。

住所:釧路市米町2丁目9-16
TEL:0154-45-1338
時間:夕日の時間〜
(季節によって異なります。お問い合わせください)
定休日:不定休
公式サイト:https://sunset.winek.jp/

photo: Natsumi Chiba

text: Katsuaki Takasaki

愛されるには理由がある
北海道の名物酒場

凍てつく寒さが続くこの季節。 うまい酒とうまい肴で出迎えてくれる店は、身体の芯から温めてくれる。いつの間にか心までポカポカに温まる、そんな名物酒場をご紹介します。

1.旭川空港

炭火焼肉 旭川ほるもん 七輪屋
Sumibiyakiniku Asahikawa horumon Shichirinya

◎旭川市

昭和な雰囲気が残る小路〈ふらりーと〉にある、創業26年の焼肉店。前店主の引退に伴い、店のファンだった千葉浩子さん(現店主)がその味を引き継いだ。伝統の味は「ネギ塩ほるもん」。鮮度にこだわり、丁寧に水洗いした豚のホルモンを注文を受けてから味付け。薄く、脂身の少ない部位のホルモンはあっさりとして次々と食べられる。旭川の地酒はもちろん、全国から取り寄せる旬の日本酒も並び、呑むや食うやの一夜を過ごせる店だ。

<DATA>
住所:旭川市5条7丁目 (5・7小路 ふらりーと)
TEL: 0166-22-4682
時間: 17:00〜23:00
定休日:火曜日
公式サイト:https://shichirinya.info/

2.女満別空港

くじら料理と地酒の店酒菜亭 喜八
Kujiraryori to jizake no mise Sakanatei Kihachi

◎網走市

鯨の希少部位を刺身で楽しむ「くじらづくし」など、捕鯨基地・網走の特産をとっくりと味わえる老舗居酒屋。1995年の創業当時は通年で鯨料理を提供する店がなかったため、漁師に聞き取りをしてメニュー作りに奮闘。鯨文化の継承を担った自負がある。カウンターには網走前浜産の朝取れ鮮魚が並び、赤々と炉端炭火が燃える様子に期待が高まること間違いなし。鯨のベーコンには焼酎お湯割りが合うなど店のおすすめがあるので、ぜひ耳を傾けて。

<DATA>
住所: 網走市南4条西3丁目
TEL: 0152-43-8108
時間:16:00〜22:00
定休日:不定休
公式サイト:http://www.theearth1990.co.jp/kihachi

3.新千歳空港

美唄焼鳥 たつみ
Bibai yakitori Tatsumi

◎美唄市

北海道の焼鳥は個性豊か。豚肉と玉ねぎを交互に刺して焼いた「室蘭焼鳥」もあれば、鶏のモツを刺して焼いた「美唄焼鳥」もまた特徴的だ。同店は美唄市では1番の老舗で、創業1968年。親鳥を1羽丸ごと買い取り、自店でさばくためモツの部分も串焼きとして提供することができる。3種類の塩を焙煎した独自の塩がなんとも美味。モツ串を蕎麦の上に乗せたモツ蕎麦も人気で、モツからじわりとでる出汁がここだけの味わい。寒さを吹き飛ばす一杯だ。

<DATA>
住所:美唄市西1条南1丁目1-15
TEL:0126-63-4589
時間:11:00〜21:00(L.O. 20:30)
定休日:火曜日(祝日は営業)
公式サイト:https://tatsumi.store/

4.函館空港

地物産品御料理処 根ぼっけ
Jimonosampin oryoridokoro Nebokke

◎函館市

根を張ったように餌の豊富な場所に留まることで大きな個体に成長する希少な「根ボッケ」は、脂のりがよくまさにホッケの王様! そんな根ボッケを刺身として最初に提供し始めたのが同店だ。市場から朝に仕入れてすぐ処理をすることで鮮度を保ち、メニュー化に成功。他にも函館の料亭で修行を積んだ前料理長の味を守りつつ、道南の食材を巧みに使った味わいが楽しめる。近年、函館に新設された2つの酒蔵の酒を飲み比べるのもおすすめだ。

<DATA>
住所:函館市松風町8-19
TEL: 0138-27-4040
時間: 17:00〜22:00 (L.O. 21:30)
定休日:不定休
公式サイト:https://nebokke.jp/

5.帯広空港

北の屋台
Kitanoyatai

◎帯広市

和食・中華・フレンチなど十勝のうまいもんを活かした店が20軒も立ち並ぶ「北の屋台」。全国にある屋台村ブームの先駆けとなった場所で、店は3年ごとに新規募集するシステムだ。なんと屋台内から他の店の出前がOKで、例えば串焼き屋でイタリアンを楽しむことができる。冬はしっかりと冬囲いで防寒され、店内と外の気温差が約40℃(店内:+20℃、外:-20℃)になることも。8席ほどの店内でひしめき合いながら、ぬくぬくと一杯いただこう。

<DATA>
住所:帯広市西1条南10丁目7番地
TEL: 0155-23-8194(北の起業広場協同組合)
時期:通年
時間・定休日:店舗により異なる
公式サイト:https://kitanoyatai.com/

text: Chie Tsushima

企画・制作:株式会社monomode

一覧に戻る