釧路の"緑色のそば"の元祖。明治創業「竹老園 東家総本店」へ
釧路の"緑色のそば"の元祖。
明治創業「竹老園 東家総本店」へ
2026.7.28
北海道の東部に位置し、目の前に太平洋が広がる港町・釧路。海産物のイメージが強い釧路ですが、実は知る人ぞ知る「そばの町」でもあります。市内のいたる所に個性豊かなそば店が暖簾を掲げ、地元の人々の食文化に深く根付いています。
そして釧路のそばには、他の地域ではなかなかお目にかかれない大きな特徴があります。それが、鮮やかな「緑色のそば」。街のあちこちにある名店を訪れると、翡翠色の細麺が目に飛び込んでくることでしょう。
そのルーツとなるのが、今回ご紹介する明治創業の名店「竹老園 東家総本店」です。同店から独立したお弟子さんたちが、緑色のそばの伝統と技を受け継ぎ、釧路全域へと広まっていきました。釧路のそば文化に多大なる影響を与えてきた「竹老園 東家総本店」とは、どのような店なのでしょうか。おいしいそばの秘密と、150年以上にわたる長い歴史をご紹介します。
※本記事は2026年6月時点の情報です。おでかけの際は各公式サイトにて最新情報をご確認ください。
※価格はすべて税込です。
明治から受け継がれる、釧路そばの礎
「竹老園 東家総本店」の歴史は、北海道に開拓使が置かれた5年後、1874年に初代・伊藤文平が小樽の街で夜啼きそば「やまなか」の屋台を引いたことに始まります。その後、1912年に漁業や石炭産業で目覚ましい発展を遂げていた釧路の地へと移転して「東家」を開業。これが現在の「竹老園 東家総本店」の源流となります。
実は釧路市内、さらには札幌など北海道各地で「東家」の暖簾を掲げるそば店は多く存在しますが、そのおおもと、すなわち「本家・総本店」にあたるのが、ここ「竹老園」なのです。
現在、その伝統を受け継ぎ店を守っているのが5代目の伊藤純司さんです。先人たちが築いた歴史の重みを感じながら、日々そば作りと向き合っています。
「とても長い歴史があり、この店のそばを愛してくれる方も多いので、昔の味をしっかり守り続けることが大事。それが私の役目だと思っています」と伊藤さん。
1年中「新そば」の喜びを。伝統が生んだ"緑色"の正体
竹老園を語る上で欠かせないのが、鮮やかな緑色のそばです。初見だとちょっと驚く色味ですが、なぜこのような目にも鮮やかな緑色になったのでしょうか。その背景を伊藤さんに教えてもらいました。
「そもそもそばの実は、秋に収穫される『新そば』の時期には緑色をしています。しかし、時間が経つにつれてだんだんと茶色や黒っぽく変化してしまうのです。そこでかつて東京の名店『かんだやぶそば』が、お客さまに1年中、新そばの気分を楽しんでもらおうと、そばもやしを摺って混ぜ込み、そばを緑色に仕上げて提供したのが始まりと言われています。うちでは、正直古い話なのでいつからかはっきりしないのですが、初代の伊藤文平がそれに倣って始めたと言われています」。
時代の変遷に伴い、現在竹老園では厳選の更科粉(そばの実の中心部分だけを挽いた上質な粉)に「クロレラ」を練り込んで爽やかな翡翠色を生み出しています。見た目だけじゃなくその味わいももちろん素晴らしく、更科そばならではの上品な風味となめらかな喉ごしは、さすが老舗の逸品です!
外せない定番から独創的な名物そばまで
竹老園の暖簾をくぐったら、まずは何から味わうべきか。メニューが多く悩むところではありますが、初めて訪れる方にぜひ味わってほしい品を厳選してご紹介しましょう。
一品目は、そばそのものを堪能できる「もり」です。細切りの更科そばはしなやかなコシがあり、香りも喉ごしも秀逸。そんな麺の繊細さを際立たせるのが、秘伝のそばつゆです。出汁に合わせる「かえし」は醤油に加熱処理を施さない「生がえし」で、出汁には高知県産の宗田節を贅沢に用い、醤油は名門ヒゲタ醤油を使用。きりっとした切れ味のある醤油の香気と、出汁の力強い旨味が麺と見事に調和します。
続いては、釧路のそば店では必ずと言っていいほどある「かしわぬき」です。「かしわぬき」とは、鶏肉が入った温かいそばから「そばを抜いた」つゆのこと。竹老園では旨味が強い親鳥を使用しており、噛めば噛むほど濃厚な鶏の脂と出汁のコクが溢れ出します。つゆとしてそのまま味わうのはもちろん、もりそばの冷たい麺をこの熱々のかしわぬきに浸して、温冷のコントラストを楽しみながら食べるのも地元・釧路の通な食べ方です。
そしてもう一品、絶対に外せない名物が「蘭切りそば」です。3代目・伊藤徳治氏が生み出した創作そばで、つなぎに卵を使った鮮やかな黄色の色合いが印象的。1954年、昭和天皇・皇后両陛下が釧路をご訪問された際、この蘭切りそばをお気に召し、昭和天皇がお代わりをご希望されたという有名な逸話が残されています。緑の「もり」とはまた異なる風味と食感が楽しめる、こちらも竹老園を代表する一品です。
竹老園が発祥のオリジナルメニューも要注目!
竹老園には「蘭切りそば」のほかにも、ここが発祥のオリジナルメニューがあります。その代表格が、そば通から支持を集める「無量寿(むりょうじゅ)そば」です。
冷たく締められた自慢のそばに純正黒胡麻油を大胆にかけまわし、そこに特製のタレ、上に刻み葱とワサビ、さらに細切りの海苔をたっぷりのせ、真ん中に卵黄を落とした一品で、豪快にかき混ぜて味わえば、胡麻油の香りと海苔やネギの風味、卵黄のコクが混然一体に。香ばしさとそばの清涼感が絶妙に調和した一杯で、一度味わうとその香りが忘れられなくなる、病みつきになる味わいです。
さらに、3代目・徳治が1950年に発案し、不動の人気を誇るサイドメニューが「そば寿司」です。これは緑色の更科そばをすっきりとした甘酢でサッと味付けし、巻き寿司のように丁寧に巻き上げたもの。甘酢の爽やかな酸味とそばの香り、そして海苔の磯の香りが口いっぱいに広がり、口に含むと不思議な清涼感が広がります。これは釧路の地酒「福司(ふくつかさ)」と合わせても最高かも。
名建築と庭園。そして「100年フード」の誇り
竹老園の魅力はそばだけではありません。店舗(お座敷席)として使われているこの建物は、もともと2代目・伊藤竹次郎が1927年に隠居用の自宅として建てたものでした。しかし、そばへの情熱を断ち切ることができなかった竹次郎は、この邸宅を「東家総本店」として営業を開始。個人の住まいから生まれた空間には、どこか温かみと品格が漂っています。
敷地には手入れの行き届いた美しい日本庭園が広がっています。1932年に竹次郎の名前をとって「竹老園」と命名され、それ以来、店の名前にもなっています。四季折々の表情を見せる庭を眺めながら味わうそばは、また格別の趣がありますよ。
こうした長年の歴史、独特な緑色のそば、そして食文化への貢献が評価され、「釧路のそば」は2024年、文化庁が推進する「100年フード/近代の100年フード部門~明治・大正に生み出された食文化~」に認定されました。
「これからも昔の味と伝統を精一杯守っていきます。現在、釧路市内には東家の暖簾を掲げる店が16軒あります。それぞれの違いがありますので、竹老園だけじゃなく、ぜひほかの東家も巡って食べ比べを楽しんでほしいです」と伊藤さんは笑顔で語ってくれました。
150年守り継がれてきた緑色のそば。そしてそれを支える職人の矜持。緑色のそばを手繰って、釧路が育んできた豊かな食文化の一端を感じてみてはいかがでしょう。
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竹老園 東家総本店
住所:釧路市柏木町3-19
TEL:0154-41-6291
営業時間:お座敷 11:00~14:30(LO14:00)、ホール 11:00~16:00(LO15:30)
定休日:火曜
公式サイト:https://chikurouen.com/
企画・制作:株式会社monomode
取材・編集:宮川健ニ
撮影:亀畑清隆

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