世界を魅了する彫刻家・安田侃の作品と、まちや人々が紡ぐ、こころの故郷「安田侃彫刻美術館アルテピアッツァ美唄」(2)

世界を魅了する彫刻家・安田侃の作品と、
まちや人々が紡ぐ、こころの故郷
「安田侃彫刻美術館アルテピアッツァ美唄」(2)

2025.03.04

北海道・美唄出身で国際的に知られるイタリア在住の彫刻家・安田侃の作品を展示する「安田侃彫刻美術館アルテピアッツァ美唄」。同美術館には、日本各地から参加者が集まる、大人気ワークショップがあります。それが、白大理石などに自ら彫刻する「こころを彫る授業」です。実際に筆者が参加し、ワークショップの様子をレポートします!

※本記事は2024年11月時点の情報です。おでかけの際は公式サイトで最新情報をご確認ください。
※価格はすべて税込みです。

自分と向き合い、自身のこころを"かたち"にする

ワークショップ1日目

取材撮影で訪れた約1週間後の11月2日、再び「安田侃彫刻美術館アルテピアッツァ美唄」を訪れた筆者。その理由は、ワークショップ「こころを彫る授業」に参加するためです。

▲教室は、敷地内にある「ストゥディオアルテ」

「こころを彫る授業」とは、安田侃さんをはじめ、多くの芸術家たちが使用している、イタリア・カッラーラ産の白大理石などに自ら彫刻し、自分のこころを"かたち"にする授業のこと。

自分のこころを"かたち"にする、というキーワードが気になったものの、彫刻未経験でも大丈夫? そもそもまったく芸術のことがわからないけど平気?
未知の世界へ飛び込む、緊張と期待が入り混じった気持ちで、教室の中に入りました。

▲木製の作業台と椅子。とても居心地がいい

ワークショップ開始の30分前、ぽつぽつと人が集まりはじめます。この日の参加者は20名ほど。ほとんどが何度も参加されている方々で、初めての参加者は、岩見沢市から訪れたTさんと筆者の2名。

Tさんは、以前からアルテピアッツァ美唄が大好きで、休日によく訪問していたそう。かねてから「こころを彫る授業」にも関心があり、今回、念願かなって参加が実現したとのことです。

午前10時、いよいよワークショップがスタートします。初心者組は、まず石選びから。

▲芸術家たちが愛した白大理石

石は、白大理石または軟石から選べますが、ここはやはり、安田侃さん、そしてミケランジェロも使用したという、イタリア・カッラーラ産の白大理石をチョイス。

形も大きさもさまざまな白大理石から、気に入ったものを選ぶのですが、筆者は何も考えず、インスピレーションで選定。もちろん、触ってみたり、持ってみたりして、しっくりくるものを厳選するのもOKです。

▲こころが求めるままに......

そして、選んだのがこちら。この石を選んだ理由は、今はわかりませんが、そのうち答えが見つかるといいな、と思いました。

続いて、道具の使い方を指導していただけます。

▲この石との長い付き合いがはじまる

そして、選んだのがこちら。この石を選んだ理由は、今はわかりませんが、そのうち答えが見つかるといいな、と思いました。

続いて、道具の使い方を指導していただけます。

▲道具は無料で借りられる

ノミやゲンノウ、棒ヤスリなどがずらり。これらの道具は、多くの彫刻家が使用しているイタリア製。職人さんが一つひとつ、手づくりした貴重なものです。

ノミを入れる角度、ゲンノウの打ち方、石をツルツルに磨きたい場合の方法など、親切にわかりやすく教えてくれます。

▲ノミが適切な角度で入ると、サクサク彫れる

指導はここまで。難しいことは一旦さておき、まずは習うより慣れるが、このワークショップのモットー。これこそが、「こころを彫る授業」の要かもしれません。

手探りで、試行錯誤する中で、自分が求めるかたちが定まっていく──。
石と道具を前に戸惑っていた筆者が、その楽しさにハマるとは、このときはまだ思ってもいませんでした。

石と向き合う、自分と向き合う

道具を選び、いざ彫刻タイムのスタートです!

▲まずはノミとゲンノウで挑戦
▲イメージも構想もないまま

わからないままに、彫って。

ただただ、彫って。

▲心臓みたいにしようかなと考えながら
▲表面を街のようにしようかなとも思ったり

ひたすら彫って。

思いばかりぐるぐる回って、この日は、石の表面に傷をつけただけで終了。あっという間に時間が過ぎ、ワークショップ初日が終わりました。

▲石と道具に慣れるための1日だった

ワークショップ2日目

11月3日、ワークショップ2日目です。石の感触と、道具の使い方に慣れたせいか、前日よりも素直に、石(もしかして自分?)と向き合う余裕が出てきたような気がします。

▲前日の続きに取りかかる

しばらく教室内で作業をした後、天気が良かったので、気分を変えて屋外で作業をすることに。

▲地面を覆う、イチョウの葉が美しい

冬本番を控えた、ひんやりとした空気がただよい、外で作業する皆さんの、ノミを打つコンコンという音が、空高く響きます。この音が、何とも心地いい。

そんな音色を耳に、前日とは打って変わって何も考えず、石を彫ります。気づくと、内に入り込む深度と作業が共鳴しているのか、無意識に一点を掘り進めていました。
が、ここで初めての壁にぶつかります。ある地点から石の奥へ進まなくなったのです。

▲深く掘りたいのに、間口ばかり広がる......
▲2024年の夏から通っているというOさん

そんな筆者に、隣で作業をしていたOさんがアドバイスをしてくれました。

そのアドバイスどおりにやってみると──

▲まだまだこころには程遠いが、少しずつかたちになっている

ぐっと深さが増しました。
この瞬間に、石を彫る面白さが加速。同時に、目の前の石に愛着のようなものも感じました。そんな満足感を覚えたころ、2日目のワークショップが終了しました。

▲ワークショップ終了後は、カフェアルテでティータイム

ここで終えてもいいのですが、続きを彫りたい場合は、次回以降の「こころを彫る授業」への参加(1日1200円~)や、ストゥディオアルテの個人利用(1人110円/h ※冬季間と暖房を使用する際は暖房費が別途必要)で取り組むことができます。

もちろん筆者は、今後も続けていくつもり。どんな自分のこころと出会えるのか、今から楽しみです。

それぞれの「こころを彫る授業」

「こころを彫る授業」には、年齢も、職業も、住んでいるところも、さまざまな方々が参加しています。

▲苫小牧市・Tさんの白大理石

筆者と同じく、今回、初めてワークショップに参加した、苫小牧市のTさん。これからも通い続けて、なめらかで、触り心地のいい、作品にしたいとのこと。

なかには、安田侃さんに直接、作品を講評してもらったことがある方も。そのときのことを、嬉しそうにお話している様子が印象的でした。

▲安田作品の造詣も深い方だった

「こころを彫る授業」に通ってちょうど10年という、石狩市のTさんは、お母さまと一緒に参加。

(左)▲石狩市・Tさんは、5作目に挑戦中
(右)▲Tさんのお母さま

「親子で同じ趣味を持つのもいいかなと思って、母を誘ったら「行ってみたい!」と。そこから2人で参加しています。すっかり親子で彫刻に夢中になって、イタリアから道具を輸入し、自宅で作業できるようにと、僕と母の分の作業台まであるんです」と、Tさん。

終始、黙々と石を磨いていたHさんは、この作品のような、実直で優しい雰囲気の方。札幌市から電車とバスを乗り継いで参加しているとのことで、往復の道中も楽しんでいる様子が伝わってきました。

安田作品や、石を彫ることに魅せられた人々が集まる、「こころを彫る授業」。
訪れれば、約束せずとも、そこには見知った誰かがいて、笑顔であいさつを交わす。
ゆるやかに、おだやかにつながる、もうひとつの自分の居場所になるかもしれません。

▲札幌市・Hさんの作品

<DATA>
安田侃彫刻美術館 アルテピアッツァ美唄
住所:美唄市落合町栄町
TEL:0126-63-3137
開園時間:美術館9:00~17:00、カフェアルテ10:00~17:00 ※11月中旬~翌3月中旬の平日は10:00~16:00
休園日:火曜日、祝日の翌日(日曜日は除く)、年末年始
入園料:無料(アルテ市民ポポロ[年会費3000円]など、任意による寄付を募っています)、こころを彫る授業 白大理石1万5000円/軟石1万円(ともに石代込み)※昼食代は別途(要予約)
公式サイト:https://www.artepiazza.jp/
※冬季は、屋外にある彫刻作品を厳しい寒さから守るため、11月上旬~4月下旬ごろまで白大理石(一部ブロンズ)の彫刻作品に保護シートをかけています。

企画・制作:株式会社monomode

取材・編集:宮本 育

撮影:須田守政(FIXE)

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